🎞全体の大きな流れ —— 息つく暇もない怒涛の展開
『劇場版 鬼滅の刃 無限城編 前編』は、最初から最後まで一瞬たりとも気を抜けない、怒涛の展開だった。
物語は、主に以下の3つの激闘で構成されている:
- 胡蝶しのぶ vs 童磨
- 我妻善逸 vs 獪岳
- 炭治郎&冨岡義勇 vs 猗窩座
物語の前半はしのぶと童磨の死闘、そして善逸と獪岳の因縁の対決が続き、
後半では炭治郎&冨岡義勇が、上弦の参・猗窩座との壮絶なバトルに突入する。
特に印象深いのは、猗窩座の回想シーンが途中から挿入される構成。
この回想があまりにも濃密で感情的で、まるでここまでの戦闘が一瞬で霞んでしまうほどの破壊力と深さを持っていた。
構成としては、
**「戦闘 → 回想 → 戦闘 → 回想」**という流れをテンポよく繰り返すことで、
緊張と感動、スピードと静寂が絶妙に交差し、観客の感情を何度も揺さぶってくる。
そして何より特筆すべきは、展開の速さと密度。
ほとんど“間”がなく、次々と場面が切り替わる。
キャラクターたちの内面描写や過去も描かれつつ、それでもストーリーは一気に加速していく。
「ちょっと落ち着いて感情を整理したい…」と思う間もないまま、
気づけばクライマックスに向かって一気に引きずり込まれている。
気がつけばエンドロール。
「え?もう終わったの?」と思うほど、あっという間の上映時間だった。
この圧倒的なスピード感と感情の波に飲まれたまま、
観客は“第二章”への期待と、猗窩座の残像を胸に劇場を後にすることになる。
🎤全体的な感想 —— これが“本気の鬼滅”、完成度が異次元すぎた
一言で言えば、心を持っていかれた。
戦闘シーンは圧巻の迫力。
スピード感のある作画、息をのむ構図、そして斬撃一つ一つに込められた感情。
それらすべてが映画としての完成度を突き抜けていた。
一方で、キャラクターたちの回想シーンはとても丁寧に描かれており、感情移入せずにはいられない。
ただのバトルアニメではなく、「なぜ戦うのか」「何を背負っているのか」という心の部分にフォーカスしている点が本当に素晴らしかった。
そして個人的に強く印象に残ったのは、“無限城”という舞台そのもの。
3D映像での俯瞰描写によって、
この異空間がどれほど巨大で、入り組んでいて、まるで迷宮のような構造なのかを視覚的に体感できた。
「ただの戦いの舞台」ではなく、恐ろしくよく作り込まれた世界そのものとして無限城が生きていた。
ここまで濃密な内容が“第一章”だという事実にも驚かされる。
正直、第一章だけでクライマックス級の満足感がある。
「この先、どこまで凄くなるんだ…?」という期待しかない。
そして、やはりLiSAの主題歌が作品の空気を締める。
音楽と映像が完全に一体化していて、
ラストの余韻まで心をつかまれたままだった。
前回の『無限列車編』も名作だったが、
今回の『無限城編』は、あらゆる面でそれを凌駕していると断言できる。
作画、演出、音楽、構成、演技、どれを取っても抜け目がない。
これだけの完成度を持つ劇場アニメは、そうそう存在しない。
まさに、「これが本気の“鬼滅”だ」と胸を張って言える出来だった。
🦋しのぶ vs 童磨 —— 救いのなさが胸をえぐる

胡蝶しのぶの戦いは、ただのバトルではなかった。
怒り、無念、覚悟、そして絶望——そのすべてが彼女の刃に込められていた。
普段は笑顔を絶やさないしのぶが、ここまで感情をむき出しにする描写は衝撃的だった。
何度も毒を仕込み、あらゆる技で童磨を仕留めようとする。だが、全くきかずあっさりと吸収されてしまう。
その“無力感”は観る側にも強烈に伝わり、しのぶがどれほど追い詰められていたかが痛いほど分かった。
そして印象的だったのが、姉・カナエの回想シーン。
思った以上に長く描かれており、しのぶにとってカナエがいかに心の支えであり、導きであったかが深く描かれていた。
それがまた、しのぶの死が持つ重みと哀しみを増幅させる。
そんな彼女が倒れるシーンは、あまりにも静かで、逆にその“救われなさ”が胸を刺す。
「こんなにも戦ったのに、届かない」——その現実は、残酷すぎる。
一方の童磨は、まさに完璧なサイコパス。
笑顔の裏に狂気と冷酷さを湛え、どこか楽しげに人を殺めるその姿は、圧倒的な不気味さを放っていた。
だが、そんな童磨にも一瞬だけ“人間味”を感じたシーンがある。
それは、信者に向かってこう思う場面だ——
「何十年も生きて、万世極楽教を信じても、なぜ救われないと気づかないのか……」
この台詞には、信じ続ける者への皮肉と、ほんの少しの同情がにじんでいた。
あの一瞬だけ、童磨という存在が「ただの狂人ではない」と思わされた。
さらに、童磨の人間時代の回想も丁寧に描かれており、
彼のサイコパス感が十分に伝わった。
この一連の描写から浮かび上がるのは、
**「死をもって救う」、「救われないことにすら気づけない者」の絶望だった。
しのぶの無念と、童磨の空虚が、胸の奥に残った。
⚡善逸 vs 獪岳 —— 泣き虫が“覚悟”を背負った瞬間

この戦いは、雷の呼吸を継いだ者と、拒絶した者の運命の衝突だった。
善逸が獪岳に対して抱いていた尊敬、怒りと失望、そして悲しみ。
逆に、獪岳が善逸に向けていた侮辱、、そして認めたくないという感情。
その両者の心の内が、非常に丁寧に描かれていた。
特に印象的だったのは、二人の共通の師匠・慈悟郎への想いの違い。
善逸は、慈悟郎を「自分のすべてを肯定してくれた人」として愛し、
獪岳は「自分を認めきれなかった者」として恨みを抱いていた。
同じ教えを受けた弟子たちの間に生まれた“真逆の感情”が、戦いをよりドラマチックにしていた。
そして今回の善逸は、もはや“泣き虫”ではなかった。
いつもの「助けてくれ〜!」と叫びながら逃げ回る姿はどこにもなく、
そこにいたのは、宿命を背負い、自分の力で答えを出そうとする剣士だった。
静かに、だが確かに、彼は「覚悟」を纏っていた。
そんな善逸の姿は、観る者にとっても新鮮で、そして胸を打つものだった。
一方の獪岳は、最後の最後まで「自分が悪くない」と思い込んでいた。
その結果、自分の罪を認めることも、過去と向き合うこともできずに散っていった。
正直、もっと死に対する恐怖や葛藤を味わいながら最期を迎えるのかと思っていた。
だが意外にも、その死はあっけないほど早く、静かだった。
それがまた、彼の“空虚さ”を際立たせていたように感じる。
この戦いは、ただのバトルではない。
「自分を信じてくれた人を裏切った者」と「信じてくれた人を守ろうとする者」——その決着だった。
そして勝ったのは、最後まで「信じること」を選んだ善逸だった。
🔥炭治郎&冨岡 vs 猗窩座 —— もはや“敵”が主役、圧巻のクライマックス

今回の劇場版で最も力が注がれていた戦い——それが、炭治郎&冨岡義勇 vs 猗窩座だった。
しのぶ vs 童磨、善逸 vs 獪岳といった激戦の後ですら、この戦いが始まるとすべてが「前哨戦」に思えるほどのスケールと緊張感。
まさに本作の“本丸”にして、“頂点”だった。
炭治郎は、煉獄さんを奪われた復讐心を胸に戦いに臨む。
だが、感情に溺れるのではなく、冷静に敵を分析し、どう勝つかを見極める姿勢が丁寧に描かれていた。
彼の成長と覚悟がひしひしと伝わってくる。
そして鍵となったのが、「透き通る世界」。
この特殊な感覚についての説明も丁寧で、単なるパワーアップ演出ではなく、勝敗を分ける戦術としての意味合いがしっかり描かれていたのが見事だった。
冨岡義勇もまた、静かなる存在感で魅了してくる。
無口で不愛想、でも誰よりも仲間思い。
その“表には出さない優しさ”が戦闘を通してしっかりと伝わってきた。
そして圧倒的な実力で、「やはり柱は格が違う」と唸らせる描写が続出。義勇の株が急上昇したのは言うまでもない。
だが、この戦いの真の主役は——猗窩座だった。
彼の存在感は、もはやこの映画そのものを象徴していた。
炭治郎と斬り結ぶ中で、猗窩座はかつての師・慶蔵の姿を重ね合わせる。
「強さとは何か」「なぜ自分は強さを求め続けたのか」——その答えを探し求める姿は、もはや敵であることを忘れてしまうほど人間的だった。
この構図はまるで、『るろうに剣心』の剣心 vs 瀬田宗次郎を彷彿とさせる。
さらに、上下弦の鬼たちは十本刀のように多彩で、
無限城も志々雄真実のアジトの最終戦を連想させる。
悲鳴嶼さんの姿、過去の回想も安慈を重ねた人も多いのではないだろうか。
そう考えると、本作が『るろうに剣心』から受けた影響の大きさは計り知れないのではないか。
そして——
最も衝撃的だったのが、猗窩座の人間時代の回想である。
彼がどのようにして鬼になったのか。
どんなに努力しても守れなかった“大切なもの”、手に入れては奪われ続けた大切なもの。
その喪失の連鎖が、彼の人格をどう歪め、どう狂わせていったのか。
その一つ一つの断片が、恐ろしいほど丁寧に描かれていた。
この回想だけで観る価値がある、と断言できる。
というより、この映画の“真の主役”は猗窩座だったと言っても過言ではない。
劇場では、彼の回想シーンですすり泣く観客の声が聞こえるほどの没入感。
原作者・吾峠呼世晴先生が、猗窩座というキャラクターに強い思い入れを持っていたことが伝わってくる構成だった。
この戦いは、単なる「勝ち負け」では終わらない。
それぞれの“過去”と“想い”がぶつかり合い、
“記憶”と“決意”で斬り結ぶ戦いだった。
👥その他の主要登場人物たち —— 静かに物語を支える影の存在たち

メインバトルの裏でも、多くのキャラクターたちがそれぞれの立場で物語に関わっていた。
彼らの存在があったからこそ、この“無限城編”の世界がより深く、より立体的に感じられた。
◆禰豆子
人間に戻るための薬を投与された影響で、本作では見せ場がなく、寝たきり状態。
だが彼女の存在は、炭治郎の戦う理由そのもの。
◆伊之助
出番は極端に少ないが、炭治郎の回想シーンで“透き通る世界”のヒントを与えるという重要な役割を果たす。
言葉は少なくとも、その存在が炭治郎の覚醒を導いたことに意味がある。まさに“陰の立役者”。
◆愈史郎
善逸を助けたり、血鬼術で無限城の攻略をサポートするなど、戦場の裏側で大きな活躍を見せた。
目立たないが、作戦成功の鍵を握る存在だった。
◆カナヲ
しのぶが倒された直後に登場するが、登場シーンは短く控えめ。
だがその沈黙の中に、カナヲの想いや覚悟がにじみ出ていた。
今後の展開での活躍が期待される“静かな継承者”。
◆炭十郎
炭治郎の父であり、かつて炭焼きとして生きた男。
だが彼は、柱や猗窩座でさえ到達できなかった「透き通る世界(至高の領域)」に達した異端の存在だった。
登場はわずかだが、炭治郎の回想シーンで彼の覚醒に多大な影響を与えるキーパーソンとして存在感を放った。
◆村田さん
まさかの水の呼吸を披露し、鬼を討伐する大活躍。
まるで「地味キャラ代表」だった彼が、ここに来て株を爆上げ。
◆無惨様
終始、大声で楽しそうに独り言を喋っていたのが印象的。
猗窩座に対して戦いを煽るような言葉を投げかけるも、**あっさりスルーされるという“無視されるラスボス”**という珍しい描写もあった。
圧倒的存在感なのに、どこか滑稽さすら感じる不気味なキャラとして健在。
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